1回目の対話から1ヶ月半後、鎌倉を訪れました。七緒さんが住む光と緑の家で2回目の対話をして、海で撮影したいという、私の希望からでした。
光と緑の家に着くと、笑顔で迎えてくれました。まずは庭の植物を案内してもらったり、やわらかな光が差し込む空間でおしゃべりしたり。対話の前にゆったりと心地よい時間を過ごさせていただき、緊張もほどけていきました。
「前回から、気持ちの変化はありましたか?」2回目の対話は、そんな問いかけから始まりました。
私は、この1カ月半のあいだに、前回うまく答えられなかった「なぜ書くことにこだわるのか」について考えていました。自分自身に問いかけて、わかったのは、「書くことが私に勇気と自信をくれていたから」でした。もともと控えめであまり前に出ていこうとするタイプではなかったけれど、自分の目で見て、素敵だと思ったものを伝えたいという気持ちが、私に力をくれていたのです。
そんな気づきを七緒さんに話すと、「何か書いてみたいものはありますか?」と問いかけてくれました。私は、もう一度書きたいという気持ちはあるものの、書きたいものは具体的にはありませんでした。ただ、パン、食、暮らし、ローカルなど、かつて好きだったものは今も好き。そんな、なにげない日常にある小さな希望を、書くことで伝えたいのだと、七緒さんに話しました。
漠然とした思いだけあって、ふわふわと夢見がちな話をしてしまったと思いました。けれど、「根っこになる思いの部分が、すごく具体的。そこがしっかりしていればきっと大丈夫」と七緒さんは言ってくれました。理解してもらえないかもしれないと思っていたのに、肯定してもらえた。それは、とても大きな安心感になりました。
撮影は、由比ガ浜で。海で自由な私を撮ってほしいと、リクエストしていました。七緒さんとおしゃべりしながら、海辺をくるくる回ったり、走ったり、ジャンプしたり。撮られる緊張感はまったくありませんでした。9月のカラリと涼しい風を感じながら、のびやかに動き、自然体でありのままの私を写真におさめていただきました。
忘れられないのは、海にざぶざぶと入っていったシーン。最初、私はお気に入りのワンピースが濡れないよう、裾をしっかりつかみ、恐る恐る海に入っていました。そんなとき、「濡れても大丈夫、すぐ乾きますよ」と七緒さん。思い切ってつかんでいた手を放してみると、裾が風になびいたあと、ふわっと波に持っていかれ、そんな光景も美しくて…。「本当だ。大丈夫だ」と思えて、すっと肩の力が抜けていきました。
鎌倉での対話と撮影が終わり、後日、写真データが届きました。真正面の笑顔だけではなく、いろんな表情の自分がいて、「私、いい顔してるなあ」と思える写真ばかりでした。もがいた日々があったからこそ、自由でのびやかになれた私を写真に残せたことがとてもうれしく、「これが今の私だ」と自信を持つこともできました。
写真をセレクトするために何度もデータを見ていると、見るたびに印象が変わり、「こっちの表情もいいな」と思えて本当に迷いました。最終的には、これから私が前に進んでいくためのお守りになるような写真をセレクト。もう大丈夫。私はまた、前に進める。そう思うことができました。
(文:松尾友喜)